AWARDS東川賞

第34回写真の町東川賞 海外作家賞

マリアン・ぺナー・バンクロフト
Marian Penner Bancroft
カナダ・バンクーバー在住

受賞理由

「radial systems」(2017)シリーズほか一連の作品に対して

1947年カナダ、ブリティッシュコロンビア州チリワック生まれ。ブリティッシュコロンビア大学、バンクーバー美術学校(現・エミリー・カー美術大学)、及びライアソン工科大学(現・ライアソン大学、トロント)で学ぶ。1981年よりエミリー・カー大学で教鞭をとり、後進の育成にも貢献している。バンクーバー・アート・ギャラリーほか、国内外で展覧会を多数開催している。

1970年頃より、写真に撮影される対象との関係性を重視した、ドキュメンタリースタイルの作品を制作。白血病を患った義理の弟と、それを支える妹をとらえたシリーズで注目を浴びる。1980年代よりポストコンセプチュアル写真の文脈で重要な写真家を輩出した、いわゆるバンクーバー・スクールのメンバーたちと並走しつつも、独自の活動を続ける。

1980年代から90年代にかけては、写真の他にも言葉や音、ドローイングを用いた大型作品を制作し、彫刻的なインスタレーションを行う。記憶、身体、風景といったテーマを一貫して扱いながら、家族の歴史や、ヨーロッパとスコットランドにルーツをもつ入植者の少女として、自身が幼少期に受けた教育に焦点をあて、アイデンティティの形成について探究する作品を制作している。

2000年からはカラーを用い、移民の問題や、カナダの原住民とヨーロッパからの入植者との複雑な関係に踏み込んだ作品を制作。近年では、身近に繁殖する帰化植物を通して、人間の媒介によって地球規模で引き起こされる移住に焦点をあてたシリーズ「radial systems」を発表している。

作家の言葉

本年度の東川賞海外作家賞を受賞できましたことを大変光栄に思います。また、来日して、このように素晴らしい写真家の方々と作品を展示できることに感謝します。北海道訪問は、ひときわ心躍ることで、これを可能にして下さった審査員の方々に感謝申し上げます。

私は写真、テキスト、ビデオ、彫刻、音を用いて作品を作ります。近作のシリーズ「radial systems(放射状方式)」 と「HYDROLOGIC (drawing up the clouds) 水文学(雲を汲み上げる)」※では、カラープリントと壁付けビデオの2つの形を取ります。これらの作品では、特に音楽や、風景、植物や気候変動というレンズを通して自然界を間近に見ることで、人の移住を引き起こす力の、目に見える証拠を、その名付けの理由を、また自然界のその力への反映を探し求めました。この目にみえる痕跡の中に、カナダ固有の、あるいは移民の歴史が、ヨーロッパやアジアで記述された支配的な歴史と交わるのが見いだせるのです。

※ 水文学とは、水とその特性、法則、地表での分配などにまつわる科学。(オックスフォード辞典)

「雲を汲み上げる」という表現は、英国・サフォークを舞台にした1945年のベンジャミン・ブリトン作曲のオペラ「ピーター・グライムズ」から着想を得ました。モンタギュー・スレーター作の台本は、1810年ジョージ・クラッベ作の詩集「町」からの抜粋を基にしています。劇中第1幕、シーン2で登場人物ピーター・グライムズが歌うアリアの冒頭のフレーズです。その言葉通り、釣り船に乗せられて海へと流刑の死へと向かうところでオペラは終わります。

Now the great Bear and Pleiades where earth moves
Are drawing up the clouds of human grief,
Breathing solemnity in the deep night.

大地の動くところ、大熊座とスバル星は
人間の悲嘆の雲を汲み上げる
夜更け、荘厳を呼吸しながら

塩水葦原の枯れた楢の木
英国・サフォーク、スネープモルティングス
from the series “HYDROLOGIC (drawing up the clouds)” 2014
(Originals 40”x40” chromogenic prints)
塩水葦原の枯れた楢の木
英国・サフォーク、スネープモルティングス
from the series “HYDROLOGIC (drawing up the clouds)” 2014
(Originals 40”x40” chromogenic prints)
砂利浜のよろい張りの釣り船
英国・サフォーク、オールドバラ
from the series “HYDROLOGIC (drawing up the clouds)” 2014
(Originals 40”x40” chromogenic prints)
提灯、ほおずき(学名physalis alkekengi)
バンクーバー、キツラノガーデンで発見。南ヨーロッパ、南アジア、日本に自生。英国・イーストアングリアで更新世(250万年前まで)の堆積物から花粉が発見されている。(12×)
from the series “Radial Systems” 2017
(Originals 30”x30” chromogenic prints)
唐傘茸(学名Macrolepiota procera)
英国・サフォークの道路(A1095)脇で発見;世界中の温帯に自生する。1772年、イタリア・チロル地方の博物学者ジョヴァンニ・アントニオ・スコポリがヨーロッパで初めて記述している。(4×)
from the series “Radial Systems” 2017
(Originals 30”x30” chromogenic prints)
シルバー・シリング(別名Honesty, Silver Dollar, Money Plant, Moonwort, monnaie du pape, judaspenning(学名lunaria annua)
英国サフォークのブルキャンプ・ドリフトの庭で発見。バルカン半島と南西アジアの原産。1620年メイフラワー号のピルグリムによって北米からもたらされたと言われている。(17.5×)
from the series “Radial Systems” 2017
(Originals 30”x30” chromogenic prints)

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